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2011年1月23日 (日)

[世界を知る力]

評価:★★★★

著者:寺島実郎

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第一章 時空を超える視界

1 ロシアという視界

ウラジオストックで見た一枚の風景画

ロマノフ王朝の極東への野心は、ペリーの黒船来航より150年も前から芽生え、それが徐々に高まって、ウラジオストック建設とそれに伴う極東進出へと展開していった。そして、ロシアの極東進出に呼応する形で、北海道という島も形成されていった。日露関係は、日米関係よりも、もっと歴史的に深く長いかかわりをもっていたのである。戦後的な「アメリカを通した世界」像に固執していては、こういった歴史的事実さえ見落としがちになる。(p.39)

2 ユーラシアとの宿縁

七福神伝説にみる日本人的なるもの

恵比寿、大黒天、毘沙門天、弁財天、福禄寿、寿老人、布袋の七神のうち、日本土着の神と呼べるのは恵比寿だけである。あとは、ヒンズー教由来の神(大黒天、毘沙門天、弁財天)、仏教由来の神(布袋)、道教由来の神(福禄寿、寿老人)になる。これら、氏も育ちも違う七神を和気藹々とひとつの宝船に乗せてしまうところが、いかにも日本的ではないだろうか。(p.47)

空海――「全体知」の巨人

異なる国の人たちにも心を開き、自分を相対化して見ることのできる人間が「国際人」なのである。そういった特質を有した古の国際人を思い浮かべる時、わたしには真っ先に、真言宗開祖、空海の名が浮かぶ。(p.48)

第二章 相関という知

1 大中華圏

躍動する大中華圏のダイナミズム

ひと言で「中国」というが、中国本土だけを見ていては、時代の流れを見損なう。大中華圏というネットワークに着目する時、はじめて中国本土の動きが意味するものも見えてくるのである。(p.74)

2 ユニオンジャックの矢

情報と価値の埋め込み装置

ユニオンジャックの矢(かつて大英帝国の支配下にあったロンドン、ドバイ、バンガロール、シンガポール、シドニーをつないだ線)は、イギリス連邦が有してきた共通言語・文化価値・社会的インフラといった財産の「埋め込み装置」として機能している。冷戦時代、わたしたちは米ソという突出した超大国が世界を動かすという図式で世界を見てきた。しかし今日の世界は、どこか傑出した国や地域によって突き動かされているという見方では、なかなかとらえることができない。むしろ、こういった地下水脈のようなネットワークの連動、発展としてとらえるべき時代に入っているのだ。(p.88)

3 ユダヤネットワーク

世界を変えた5人のユダヤ人

誰もが知る5人の偉人(モーゼ、キリスト、マルクス、フロイト、アインシュタイン)だが、これがすべてユダヤ人というところに、唖然とするものがある。どうしてこんなにユダヤ人ばかりが、と考える時ふと浮かぶのが、ユダヤ教の教典にある「汝はいずこより来たりて、いずこに向かう者ぞ」という言葉だ。流浪の民ユダヤ人は、長い迫害の歴史のなかで常に、歴史の目的や、人間の本質を問い続けたに違いない。それが特異な構造認識の力をもたらしたのではないか。(p.92)

基軸は国際主義と高付加価値主義

列島を取り巻く海によって自然と国土が確保されている日本人の場合「ぼくらの国家はどこにある」などという疑問を抱く人は、まずいない。しかし、国家を喪失して世界中に離散したユダヤ人の場合、いま住んでいる国家への帰属意識というものは、ほとんどないといっていい。「自分は○○国民である前にユダヤ人だ」という意識が強烈に働くのである。国家という枠組みよりも、国境を超えた価値を重視する視点。これを私は「ユダヤグローバリズム」あるいは「ユダヤ国際主義」と呼ぶ。(p.94)

第三章 世界潮流を映す日本の戦後

2 米中関係

「二つの中国」が日本に戦後復興をもたらした

米中が連携して日本を倒したのが太平洋戦争だった。しかし戦後、事態は一変する。国民党と、ソ連から援助を受けた中国共産党との間に国共内戦が起こったからである。かくして1949年、蒋介石の国民党は台湾への遷都を余儀なくされ、内戦に勝利した中国共産党は、北京を首都とする中華人民共和国の成立を宣言する。ここにいたり、アメリカは皮肉な決断を迫られることになる。「共産中国を封じ込めるためには、日本を西側陣営に取り込み戦後復興させるしかない」。こうして、日本復興のシナリオが動き始める。1951年にサンフランシスコ講和条約と旧日米安保条約が締結されたのも、こういった力学が働いた結果である。もしも蒋介石が中国全土を掌握し続けていなたら、アジアの秩序は戦勝国のアメリカと中国によって完全に仕切られ、日本の復興と成長は遅れたに違いない。アメリカの巨大な投資と支援は中国本土に向かったはずだからである。そういった米中関係の混乱があったからこそ、日本は復興と高度経済成長を遂げることができたのである。(p.141)

アジア太平洋は”相対化”の時代に突入した

わたしたちは、20世紀初頭から続いた密接な米中関係があったからこそ戦中の悲劇的な日米関係がもたらされたこと、そして、戦後に米中関係の混乱があったからこそ日米同盟がもたらされたことを忘れてはなるまい。まさに「日米関係は米中関係」として展開されてきたのである。アメリカにとっては、日本も大切だが中国も大切なのである。アメリカにとってアジア太平洋のゲームは、同盟国日本を基軸とした時代から、日本も中国もという相対的なゲームへと本質的な変化を遂げた。わたしたち日本人も、日米中のトライアングルで世界を認識することを、常に想起しなければならないだろう。(p.143)

3 日本は「分散型ネットワーク革命」に耐えられるか

ふたつのグローバリズム

現代世界は国民国家レベルだけで見ると、見えないことが多い。アメリカと中国によるG2化という論議も、ネットワーク型の視界でとらえれば、まったく見える世界が変わってくる。中国について言えば、大中華圏という見えざるネットワークを通じて世界に影響力を拡大していく姿が見えてくる。アメリカについても、ユダヤ人のネットワークを媒介とし(あるいは逆に、ユダヤ人がアメリカという国家を媒介とし)、国境を超えた力学を世界に浸透させていく様子がわかるだろう。さらに、その種のことに対して異様なまでの緊張感と緊迫感をもって構えるイスラム世界という存在も視界に入ってくるはずだ。こういった国境を超えるネットワークが、うねりのような相関のなかで、世界を突き動かしていくのが21世紀の構図ではないだろうか。もはや世界潮流は、かつての「冷戦時代」や「アメリカ一極支配時代」のように単純ではない。重層的に「世界を知る力」が日本人すべてに求められている。(p.146)

第四章 世界を知る力

PCと古本屋

「世界を知る」とは、断片的だった知識が、さまざまな相関を見出すことによってスパークして結びつき、全体的な知性へと変化していく過程を指すのではないだろうか。(p.176)

知――不条理と向き合うために

わたしたちは「世界を知る」という言葉を耳にすると、とかく「教養を高めて世界を見渡す」といった理解に走りがちである。しかし、そのような態度で身につけた教養など何も役に立ちはしない。世界の不条理に目を向け、それを解説するのではなく、行動することで問題の解決にいたろうとする。そういう情念をもって世界に向き合うのでなければ、世界を知っても何の意味もないのである。(p.197)

おわりに

マージナルマンとは境界人という意味で、複数の系の境界に立つ生き方という意味である。ひとつの足を帰属する企業・組織に置き、そこでの役割を心を込めて果たしつつ、一方で組織に埋没することなく、もうひとつの足を社会に置き、世界のあり方や社会の中での自分の役割を見つめるという生き方、それをマージナルマンという。自らのテーマをもち、自らのライフスタイルを貫く意志をもちながら、帰属組織に腰を据えて参画する、これがマージナルマンの生き方なのである。(p.203)

時代は断片的な分断された知性ではなく、ますます総合化・体系化された知性を必要とする。(p.206)

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